このページでは、教育行政を担う「教育委員会」について、実際の仕事内容にも触れて解説します。
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教育委員会とは?
「教育委員会」は、行政委員会の1つで、複数の委員によって構成される合議制の行政機関です。
つまり、教育委員会を構成するのは、地方自治体の職員ではなく、一般住民であるということです(後述します)。
職員が行うのは、あくまでも、「教育委員会」を運営するために置かれた事務局(教育庁)の中の事務仕事となります。
「地方議会」が住民の中から選出された議員により構成されていて、職員は、議会事務局として議会の運営事務を行うのと同じです。
「教育委員会」には、以下の職務権限があります(地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下、地行法とします)第21条)。
- 教育委員会の所管に属する第三十条に規定する学校その他の教育機関(以下「学校その他の教育機関」という。)の設置、管理及び廃止に関すること。
- 教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の用に供する財産(以下「教育財産」という。)の管理に関すること。
- 教育委員会及び教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の職員の任免その他の人事に関すること。
- 学齢生徒及び学齢児童の就学並びに生徒、児童及び幼児の入学、転学及び退学に関すること。
- 教育委員会の所管に属する学校の組織編制、教育課程、学習指導、生徒指導及び職業指導に関すること。
- 教科書その他の教材の取扱いに関すること。
- 校舎その他の施設及び教具その他の設備の整備に関すること。
- 校長、教員その他の教育関係職員の研修に関すること。
- 校長、教員その他の教育関係職員並びに生徒、児童及び幼児の保健、安全、厚生及び福利に関すること。
- 教育委員会の所管に属する学校その他の教育機関の環境衛生に関すること。
- 学校給食に関すること。
- 青少年教育、女性教育及び公民館の事業その他社会教育に関すること。
- スポーツに関すること。
- 文化財の保護に関すること。
- ユネスコ活動に関すること。
- 教育に関する法人に関すること。
- 教育に係る調査及び基幹統計その他の統計に関すること。
- 所掌事務に係る広報及び所掌事務に係る教育行政に関する相談に関すること。
- 前各号に掲げるもののほか、当該地方公共団体の区域内における教育に関する事務に関すること。
自治体における教育行政の中枢である教育委員会には、このように多くの職務権限が与えられています。
教育委員
「教育委員会」は先に説明したとおり、合議制の機関であり、その構成員を「教育委員」といいます。「教育委員会」は、5人の委員をもって組織するとされます(地行法第3条)が、条例の定めるところにより、3人または4人とすることや、6人以上とすることもできます(同条ただし書)。
なお、委員の任期は、4年とされており、再任も可能です(地行法第5条)。
委員の構成については、いくつかの定めがありますが(地行法第4条)、特殊なものとしては、「委員には保護者を含める」という定めがあります(地行法第4条第5項)。
これは、保護者の意向が教育行政に適切に反映されるようにとの趣旨から、平成19年の地行法一部改正時に義務化されたものです(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律について(通知))。
中には、「親が教育委員をやっていた」なんていうこともあるのではないかと思います。それは大抵の場合、保護者として委員に任命されていたということになります(もちろん、有識者として任命されている場合もあります)。
教育長
教育委員会には、教育長を置くこととされています。教育長は、教育委員会の会務を総理し、教育委員会を代表する(地行法13条)地位にあり、教育行政においては、その自治体でのトップであると言えます。
平成27年4月1日付で改正地行法が施行されたことにより、それまであった「教育委員長」は廃止され、「教育長」と「教育委員長」が「新教育長」へ一本化されることとなりました。これにより、第一義的な責任者が「教育長」であることが明確になりました。
地方自治体の組織の中では、首長、副首長に次ぐ、ナンバー3の地位にあるのが教育長ということになります。
このように、教育行政において、非常に強い権限を有するため、教育長には、人格が高潔で、教育行政に関し識見を有するもののうちから、地方公共団体の長が議会の同意を得て任命するものとされています(地行法4条)。
なお、都道府県では、教育長における教職経験者の割合は約45%で、市町村における割合は、約70%となっています。(文部科学省:教育委員会制度について)
教育長の任期は、委員とは異なる3年となっており、委員同様、再任可能となっています(地行法5条)。
事務局
教育委員会の職務権限に属する事務について、実際に事務処理を行うのが教育委員会事務局(教育庁)の職員です。
ここに属するのが、教育委員会の運営事務を行う自治体職員です。
これは余談ですが、教育委員会は、首長からある程度独立した機関ですので、そこに属する事務局職員は、教育委員会へ出向という形になります。
つまり、教育委員会事務局職員は、首長名で教育委員会への出向の辞令が交付され、教育長名で教育委員会事務局職員としての辞令が交付されることになります。
指導主事と社会教育主事
教育委員会事務局には、指導主事と社会教育主事を置くことが法律で定められています(地行法第18条第1項および第2項、社会教育法第9条の2第1項)。
指導主事
指導主事は、学校における教育課程や学習指導、その他学校教育に関する専門的事項の指導に関する事務を行うこととさています(地行法第18条第3項)。
このように、指導主事には学校教育に関する専門的な知識や経験が必要とされるため、指導主事は、教育に関し識見を有し、かつ、学校における教育課程、学習指導その他学校教育に関する専門的事項について教養と経験がある者でなければならない、と法律で定められています(地行法第18条第4項)。
また、こうした指導主事は、大学以外の公立学校の教員をもつて充てることができる、とされています(同法同条同項)。
学校の先生が教育委員会にいるのは、この指導主事としているわけです。
学校、ひいては校長に対して指導を行うわけですから、通常、指導主事はヒラの教員ではなく、管理職相当の教員の場合が多いです。
たとえば、教育委員会に指導主事として入った教頭が、教育委員会を出るときには、校長になって出ていく、というような感じになっています。
社会教育主事
社会教育主事は、社会教育を行う者に専門的技術的な助言と指導を与える、とされています(社会教育法第9条の3)。
ただし、命令及び監督をしてはならないともされています(同法同条)。
指導主事同様、社会教育主事についても、誰でもなれるわけではなく、法律により社会教育主事の資格が定められています(同法第9条の4各号)。
社会教育主事は、公民館などの、社会教育施設にいることが多いと思います。
教育行政とは?
教育行政というと、「学校教育」をイメージしがちなのではないかと思いますが、実際には、様々な仕事があります。
具体的に言うと、教育行政には大きく分けて、「学校教育の振興」、「生涯学習・社会教育の振興」、「芸術文化の振興、文化財の保護」、「スポーツの振興」があります。
首長と教育行政
これまで、「教育長」が教育行政のトップとして、強い権限を持つと説明してきましたが、それは、なぜなのでしょうか?
なぜ、首長ではなく、教育長が教育行政のトップなのかというと、それは、教育の政治的中立性や、継続性・安定性を確保するためです。
首長が教育行政のトップを兼ねてしまうと、首長の個人的な思想や価値判断を反映した教育が行われてしまうことが懸念されます。
個人の価値形成に影響を及ぼす教育においては、中立公正であることが極めて重要なので、そうした首長個人の独断で、教育行政が執り行われては、まずいわけです。
また、教育は、結果が出るまで時間がかかり、その結果も把握しにくい特性から、学校運営の方針変更などは漸進的なものであることが必要なため、首長が変わる度に教育方針も変わる、ということでは、やはりまずいわけです。
そのため、首長から独立した合議制の教育委員会が教育行政を所管することとされ、その長として、人格が高潔で教育行政に関して識見を有する教育長が置かれているのです。
首長と教育委員会との連携強化
平成27年4月1日付で地行法が一部改正されたことにより、首長と教育行政との関わりが強化されることとなりました。
具体的には、➀すべての地方公共団体には、新たに「総合教育会議」を設置することとされ、➁教育に関する「大綱」を首長が策定することとされました(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律(概要))。
総合教育会議とは?
「総合教育会議」は、地方公共団体の首長が招集することとされ、会議では、(1)大綱の策定に関する協議、(2)教育を行うための諸条件の整備その他の地域の実情に応じた教育、学術及び文化の振興を図るため重点的に講ずべき施策についての協議、(3)児童、生徒等の生命又は身体に現に被害が生じ、又はまさに被害が生ずるおそれがあると見込まれる場合等の緊急の場合に講ずべき措置についての協議、並びにこれらに関する構成員の事務の調整を行うこととされています(地方教育行政の組織及び運営に関する法律の一部を改正する法律第1条の4第1項)。
「教育総合会議」を通じて、教育予算の執行権限を持つ首長と、教育行政についての職務権限を有する教育委員会とが十分な意思疎通を図り、地域の教育の課題や、あるべき姿を共有して、より一層民意を反映した教育行政の推進を図ること、とされています。
教育に関する「大綱」とは?
地方公共団体の長は、教育基本法第17条第1項に規定する基本的な方針を参酌し、その地域の実情に応じ、当該地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策の大綱を定めるもの、とされています(同法第1条の3第1項)。
「大綱」は、教育行政における地域住民の意向をより一層反映させる等の観点から、地方公共団体の首長が策定するものとされています。
しかしながら、教育行政に混乱を生じることがないようにするため、「大綱」については、「総合教育会議」において、首長と教育委員会とが、十分に協議・調整を尽くすことが肝要と言えます。
教育委員会事務局の仕事の実際
教育委員会事務局の所掌事務としては、大きく分けて、「総務」の仕事、「学校教育」の仕事、「社会教育(生涯教育)」の仕事があります。
総務
教育行政にかかわる総務(人事など)の仕事を行います。
教育委員会会議の運営
通常、毎月行われる教育委員会会議の準備(委員の日程調整、会議資料の作成等)や、議事録の作成などを行います。
人事
教育委員会及び学校その他の教育機関の職員の任免に関する事務処理を行います。
当然、人事に関する決定権者は教育長です。
職員は、あくまでも、事務処理を行うにすぎません。
統計調査などの調査
主な調査としては、「学校基本調査」や「地方教育費調査」などがあります。
「学校基本調査」は、学校教育行政上の基礎資料を得ることを目的として、毎年行われる最も重要な調査です。
調査結果は、毎年公表されています。
学校教育
学校施設の維持・管理や、児童・生徒に関する事務、学校への指導、給食に関する事務を行います。
施設や備品の管理
学校施設(校舎、体育館、調理場など)の維持・管理を行います。
子どもの安全を確保することももちろんですが、被災時には体育館などが避難所として使用されることから、学校施設の耐震化が近年では、最重要事項となっています。
児童・生徒に関する事務
児童・生徒の就学や転学、退学に関して、名簿の作成や更新を行います。
また、児童・生徒の健康診断を実施します。
そのほか、要保護および準要保護児童・生徒の認定を行い、就学援助費の支給に係る事務を行います。
学校への指導
これは、先に説明したように、学校の先生などの指導主事が行います。
当然ながら、学校経営について何ら知識も経験も持たない、一般行政職の職員に務まる仕事ではありません。
そうしたこともあって、教育委員会の事務局には、学校教育について専門的な知識や経験を有する指導主事を置くこと、と法律で定められているわけです。
教科書の採択や無償給与に関する事務
教科書については4年に一度のサイクルで、各市町村もしくは、各地区(いくつかの近隣市町村で構成される)ごとに、どの会社のどの教科書をどの学年で使うか、ということを決定します。
また、そうして使うことの決定した教科書について、毎年必要となる数を集計し、年度途中での転入学や転学があれば、過不足のないよう、必要な教科書の数を集計します。
近年、教科書謝礼問題として、ニュースを賑わせたのが、この教科書採択事務です。
教科書採択の時期になると、各教科書発行会社の営業担当が、こぞって教育長に「ご挨拶」にやってきます。
学校給食
給食の献立作り、給食用食材の発注、給食の調理、給食費の収納に関する事務を行います。
社会教育(生涯学習)
社会教育施設の維持・管理や、文化財に関する事務、スポーツ振興などの事務を行います。
施設や備品の管理
社会教育施設(図書館、公民館、博物館、体育館、屋外運動場など)の維持・管理のために、修繕を行ったりします。
たとえば、台風が来たり、地震が起きたりすれば、その都度、施設に被害が出ていないかどうかを確認して回るといった作業が発生します。
文化財の保存・活用
各地の名所・旧跡などで、その由来について書かれている案内板の最後に「○○市教育委員会」などと書いてあるのを、見かけたことはないでしょうか?
これが、文化財の保存・活用に関する事務のわかりやすい例です。
そのほか、新たに家やビルなどを建てようとする業者などが、計画している場所に文化財が埋まっていないかどうかということを窓口に確認に来たりします。
スポーツ振興
たとえば、市民マラソンなどのスポーツに関する大会を企画・運営したりします。
まとめ
- 「教育委員会」は、教育行政を執行する合議制の行政機関である
- 教育には政治的中性が求められるため、「教育委員会」は、首長部局とは独立した機関となっている
- 法律の一部改正によって、教育の政治的中立性や継続性・安定性を維持しつつ、教育行政に関する首長と教育委員会との連携が強化された