【財政担当対象】地方債(起債)についての解説

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このページでは、主に地方公務員の財政係として担当することになる地方債(起債)について、解説します。

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地方債とは?

「地方債」とは「地方公共団体が1会計年度を超えて行う借入れ」をいいます。



なお、実際に「地方債」を起こして、資金の借入を行うことを「起債」といいます。

なぜ、地方債で借入れを行うのか?

これは、財政学の論点として良く問われる「中立性」の観点から説明することができます。
何らかの施設を新たに建てる場合を考えてみましょう。


【前提】

  • 新たに施設を建てるには、たくさんの費用がかかる
  • 施設は建てた後、数十年に渡って使用される



ここで、地方公共団体の予算は、基本的に一年度ごとに次年度の歳入と歳出を見積もり、その見積もり(予算)通りに事業を行います。


施設の建設事業に掛かる経費を一年度の予算で執行するとなると、その施設が建設された時の現役世代にとっては、施設の建設に予算が費やされた結果、他に必要とされる事業がカットされたり先延ばしにされるなど、何らかの負担を負うことになります。


その一方で、施設が建てられた後に生まれた世代では、施設建設については何の負担もなしに、その施設を利用することが可能となります。


このように、単年度予算で予算額の大きな事業を行おうとすると、世代間で不公平が生じるわけです。
地方債を借りて、借入金を段階的(数年~数十年)に償還していくことで、こうした世代間の不公平を解消することが可能となります。

地方債の対象となる事業

「地方債」はどのような事業についても起こせるものではなく、対象となる事業には、制限があります(地財法第5条)。


これは、上で述べたとおり、予算は単年度ごとに、執行することが原則だからです。
原則通りに予算の執行を行うと、かえって不都合が生ずる場合にのみ、例外的に、「地方債」を借入て財源に充てることができるわけです。


地方債を財源とすることができる事業は、具体的に、下記の通りとなっています。

  • 交通事業、ガス事業、水道事業に要する経費の財源とする場合
  • 出資金及び貸付金の財源とする場合(出資又は貸付けを目的として土地又は物件を買収するために要する経費の財源とする場合を含む。)
  • 地方債の借換えのために要する財源とする場合
  • 災害応急事業費、災害復旧事業費、災害援助事業費の財源とする場合
  • 学校その他の文教施設、保育所その他の厚生施設、消防施設、道路、河川、港湾その他の土木施設等の公共施設又は公用施設の建設事業費(公共的団体又は国若しくは地方公共団体が出資している法人で政令で定めるものが設置する公共施設の建設事業に係る負担又は助成に要する経費を含む)及び公共用若しくは公用に供する土地又はその代替地としてあらかじめ取得する土地の購入費(当該土地に関する所有権以外の権利を取得するための経費を含む。)の財源とする場合。



また、上記以外にも特例として、対象とすることのできる事業があります。
以下に、主なものを挙げます(ここで挙げたもの以外もあります)。

  • 辺地債(辺地に係る公共的施設の総合的整備のための財政上の特別措置に関する法律)
  • 過疎対策事業債(過疎地域自立促進特別措置法)
  • 減税補てん債(地財法第33条の5)
  • 臨時財政対策債(地財法第33条の5の2)
  • 退職手当債(地財法33条第の5の5)
  • 第三セクター等改革推進債(地財法第33条の5の7)
  • 再生振替特例債(地方公共団体の財政の健全化に関する法律)

借入先

「地方債」の借入先は、大きく「公的資金」と「民間等資金」に分けることができます。

  • 公的資金
    • 国(財政融資資金)
    • 地方公共団体金融機構(全ての地方公共団体の出資により設立された「地方共同法人」)
  • 民間等資金
    • 市中銀行
    • 金融機関
    • 市場公募債

国による補助金と起債との関係

「起債」は、主に国庫負担や国庫補助を受けた事業が対象となります(参考:平成31年度地方債同意等基準)。
ただし、上で特例として挙げた「減税補てん債」、「臨時財政対策債」、「退職手当債」などは国庫負担や国庫補助を受けていなくても起こせる「地方債」となっています。


ここでは、起債の際に、目にすることとなる「補助裏」、「継ぎ足し単独事業」、「充当率」といった用語について説明していきます。

補助裏

「補助裏」とは、ある事業に必要となる費用のうち、国庫補助金などの対象となる事業費から国費を除いた部分をいいます。
次のように表すことができます。

補助裏 = 事業費(対象内経費) - 国費(負担金・補助金)



つまり「補助裏」とは、ある事業について、地方が単独で負担する費用に相当するといえます。


なお事業費については、”対象内経費”とカッコ書きしたように、対象となるための条件があったり、上限額が設けられていたりなどして、必ずしも事業費の全てが補助対象となるわけではありません。

補助裏の具体例

ここで総事業費10億円で既存の図書館を建て替える場合を考えてみましょう。
総事業費10億円のうち、補助対象となるのは9億円で、補助率が1/2であるとします。
このときの補助裏は次のように求めることができます。

補助裏 = 補助対象内経費(9億円) - 国庫負担金(9億円×1/2) = 4.5億円

補助対象内経費の考え方

建物の建設で、何が補助対象となるかの基準としてよく言われるのが、建物全体をひっくり返したときに、落ちるかどうか、というものがあります。
つまり、建物と一体となっているものは補助対象となり、建物と一体となっていないものは、備品扱いとなり、補助対象とはならない、ということです。

先ほどの図書館を例にして考えてみましょう。
図書館には、建物全体の他に、「本を入れるための棚」や、「本」、「閲覧用の机」、「椅子」、「受付のカウンター」などがあります。
図書館全体をひっくり返したとすると、その中にあるもののうち、「本」は、間違いなく落ちてしまうでしょう。このことから、本は補助対象とはならず、備品であるということが分かります。

「棚」や「机」、「椅子」、「カウンター」は、据え付けられている場合、建物全体をひっくり返しても落ちないので、補助対象に含まれます。
一方で、「棚」や「机」などが、据え付けられているのではなく、ただ単に置かれている(移動可能)場合には、ひっくり返すと落ちてしまいます。
この場合には、備品として扱われ、補助対象にはならないと言えます。

継ぎ足し単独事業

「継ぎ足し単独事業」とは、国庫補助を受けて行う事業の費用のうち、補助対象とならない費用に係る部分を言います。
次のように表すことができます。

継ぎ足し単独事業=総事業費-補助対象内経費(※補助対象内経費=国費+補助裏)



なお、事業費の全てが、補助対象内経費となる場合には、「継ぎ足し単独事業」は生じません。

継ぎ足し単独事業の具体例

図書館の建て替えの例で言うと、総事業費10億円のうち、補助対象外経費である1億円の部分が、「継ぎ足し単独事業」ということになります。

継ぎ足し単独事業 = 総事業費(10億円) - 補助対象内経費(9億円) = 1億円

充当率

「充当率」とは、「補助裏」や「継ぎ足し単独事業」のうち、地方債を充てることのできる比率を言います。
充当率が75%であれば、起債対象事業費のうち、3/4の額までしか起債できないということになります(残りの1/4は、自治体の一般財源から支出)。


各事業の充当率については、毎年度、地方債計画により決定されています(参考:平成31年度地方債充当率)。

充当率の具体例

再び、図書館の例で見てみます。
図書館建て替えの総事業費が10億円で、そのうち1億円が「継ぎ足し単独事業」にあたり、国からの補助金の率は1/2でした。
このとき、「補助裏」に対する「充当率」が90%で、「継ぎ足し単独事業」に対する「充当率」が75%あるとすると、それぞれの起債額は下記の通りとなります。

補助裏の起債額 = 補助裏(4.5億円) × 90% = 4億5百万円

継ぎ足し単独事業の起債額 = 継ぎ足し単独事業(1億円) × 75% = 7,500万円



※簡易協議等手続きの対象となる起債についは、10万円未満の端数は切り捨てとなります(参考:平成31年度地方債同意等基準運用要綱について)。


起債の充当率

起債は、「地方再計画」に基づいて行われますが、対象となる事業や充当率は、当然、その事業の必要性の程度に応じて年度ごとに変わります。


例えば、「緊急防災・減災事業」は、東日本大震災後に新たに対象となった事業ですが、その性質上、恒久的に継続されるものではありません。
現在のところは、平成28年までの延長が決定されています(その後も継続するのかは不明です)。

必要となる一般財源の額は?

ここまで、図書館の建て替えを例に挙げて、「補助裏」、「継ぎ足し単独事業」、「充当率」などを見てきました。
国からの補助と起債による借入を除いた費用は、自治体の一般財源から支出することとなります。


つまり、歳入(国費と起債による借入)として入ってくるお金より、歳出(総事業費)として出て行くお金のほうが多いので、その差額分について、その年度の歳出予算から支出することになるわけです。


図書館建て替えの例で必要となる一般財源の額についてまとめると、下表のとおりとなります。

総事業費 10億円
補助対象内経費 9億円 国庫負担金 4.5億円
補助裏 4.5億円 起債額 4.05億円
一般財源 0.45億円
補助対象外経費 1億円 起債額 0.75億円
一般財源 0.25億円
一般財源計 7,000万円




このように、国庫負担金や起債を活用することで、総事業費10億円の事業について、単年度予算7,000万円で実施することが可能となり、起債で借り入れた額については、毎年度一定額を償還していくこととなります。

おわりに

前半部分では、起債の意義や、対象となる事業などについて説明しました。
また、後半部分では、国からの補助金と起債との関係について、具体例を用いながら説明しました。


はじめのほうでも説明しましたが、起債を活用することによって、多額の費用がかかる事業について、財政的な負担を長期間にわたって分散させることにより、世代間で不公平が生じないようにすることが可能となります。


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