自治体の財政状況は、公務員試験に直接関わるということはありませんが、試験合格後に職員として働く際には、とても重要なことです。
このページでは、その理由について説明します。
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自治体の財政状況を知ることの必要性
自治体の財政状況は、そこで働く職員の労働環境に影響します。
そのため、あらかじめ、受験予定の自治体の財政状況について、把握しておくことが必要です。
入庁してしから、こんなはずではなかった、とならないためにも、受験予定の自治体の財政状況を、事前によく確かめておきましょう。
財政状況が厳しいとどうなるのか?
ここで、財政状況が悪い場合には、そこで働く職員にとってどのような影響があるのか具体的に見ていきましょう。
財政状況が労働環境に与える影響
ごくごく単純化すると、財政状況に余裕のある自治体ほど労働条件が良く、財政状況の厳しい自治体ほど労働条件が悪くなる傾向にあると言えます。
たとえば財政状況の厳しい自治体ですと、その自治体の規模から必要とされる職員数より、職員数が少なく抑えられているという場合があります。
職員数が少ないということは、職員1人当たりの業務量が増えるということを意味します。
なぜならば、自治体が行うべき業務は、職員の数に関係なく、ある程度決まっているからです。
業務量は変わらないのに、職員数は少ないのですから、当然、職員1人当たりの業務量は増えることになります。
業務量が増えることで、業務の処理に費やす時間がより多く必要となるので、残業をしなければならない可能性が高まります。
財政状況に余裕のある自治体ならば、基本的には残業をすれば、残業した分だけ時間外手当が付きます。
しかしながら、財政状況が厳しい自治体ではそうもいかず、残業しても時間外手当が付かないという、いわゆるサービス残業をしなければならない可能性が高くなります。
このように、財政状況が厳しい自治体では労働環境が悪くなりやすい傾向にある、といえます。
厳しい財政状況がもたらす悪循環
財政状況が厳しい状況にあると、そうでない場合に比べて、住民にとって必要なサービスを提供しづらい状況であるといえます。
このような財政状況を理由とした住民サービスの低下は、さらなる財政状況の悪化を招く可能性があります。
ここで、最近子どもが生まれたという賃貸住宅で暮らすAさんの家庭について考えてみましょう。
ママ友と話をしているうち、どうやらママ友の住んでいる自治体は、Aさんの住んでいる自治体よりも、子育て支援がずいぶん充実しているらしい、ということが分かってきました。
ママ友との電話を終えたAさんは、引っ越しすることも視野に入れつつ、近隣自治体の子育て支援制度について、スマホを使って調べ始めました。
この例のようなことは、十分にありえることだと考えられます。
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自治体の財政状況が悪いと、このような負のスパイラルともいえる悪循環に陥ってしまう可能性が大いにあるのです。
自治体の財政状況を知る方法
自治体の財政状況を知る方法として、一番確実なのは、その自治体の決算カードを確認することです。
決算カードとは?
決算カードとは、総務省の実施する、地方財政状況調査の結果を、1枚の表にまとめたものをいいます。
地方財政状況調査は、全地方公共団体の毎年度の決算状況について、統一ルールに基づいてまとめたもで、決算統計とも呼ばれるものです。
総務省の公式サイトでは、都道府県別、市区町村別に、平成13年度以降の分については、全国全ての自治体の決算カードが掲載されているので、受験予定の自治体の決算カードを確認するには、そちらで確認するのがおすすめです。
この決算カードを確認することで、その自治体の財政状況について、知ることができます。
確認すべき項目
決算カードはたった1枚の表であり、そこに1つの自治体の決算情報が集約されています。
ですから、一目見ただけでは、どの項目に注目して見れば良いのか分かりません。
ここでは、自治体の財政状況を知るうえで、着目すべき項目について、東京都の決算カードを例に挙げて説明します。
財政力指数
カードの下半分の右側にある「区分」欄の上から5番目にあります。
財政力指数は、標準的な行政サービスを提供するために、自治体が自ら標準的に収入し得る財源の割合を示します。
財政力指数が大きいほど、財源に余裕があるといえます。
東京都の場合、平成26年度の財政力指数は、0.92532であり、都道府県としては、唯一の地方交付税不交付団体です。
※財政力指数が1を下回る場合、地方交付税が交付されることとなっているので、財政力指数が0.92532であれば、本来、地方交付税が交付されることになります。しかし、東京都の場合、東京都と特別区(23区)を合わせて1つの自治体と見なすため、東京都と特別区(23区)を合わせた場合の財政力指数は、1を上回り、地方交付税不交付団体となります。
経常収支比率
カードの下半分の左側にある「性質別歳出の状況」欄の右下囲み部分にあります。
経常収支比率は、財政構造の弾力性(自由度)を測定する指標です。
経常収支比率が低いほど、財政運営に弾力性があり、自由に使える財源が多くあることを示します。
東京都の場合、平成26年度の経常収支比率は84.8%であり、全都道府県中、最も経常収支比率の割合が小さく、財政運営は弾力的で、自由度があるといえます。
実質赤字比率
カードの下半分右側にある「健全化判断比率」欄の1番上にあります。
実質赤字比率は、一般会計等を対象とした実質赤字額の標準財政規模に対する比率を表す指標です。実質収支に赤字が生じていなければ、この数値は算出されません。
実質赤字比率の早期健全化基準は、道府県では3.75%(東京都は特別区に関連した補正が加えられるため別途設定される)となっています。また、市町村は財政規模に応じ11.25~15%となっています。この基準を超えた自治体は財政の健全化に向けての計画を策定し、これに取り組まなければなりません。
東京都の場合、平成26年度は実質赤字額がないため、実質赤字比率は算出されていません。
連結実質赤字比率
カードの下半分右側にある「健全化判断比率」欄の上から2番目にあります。
連結実質赤字比率は、全会計を対象とした実質赤字額又は資金の不足額の標準財政規模に対する比率を表す指標です。
全会計において、実質収支に赤字がなければ、連結実質赤字比率は算出されません。
連結実質赤字比率の早期健全化基準は実質赤字比率の基準に5ポイント加えたものとなっており、道府県では8.75%(東京都は特別区に関連した補正が加えられるため別途設定される)となっています。また、市町村は財政規模に応じ16.25~20%となっています。この基準を超えた自治体は財政の健全化に向けての計画を策定し、これに取り組まなければなりません。
東京都の場合、平成26年度は、実質赤字額及び資金の不足額がないため、連結実質赤字比率は算出されていません。
実質公債費比率
カードの下半分右側にある「健全化判断比率」欄の上から3番目にあります。
実質公債費比率は、借入金(地方債)の返済額及びこれに準じる額の大きさを指標化したもので、資金繰りの程度を表す指標です。
実質公債費比率が低いほど、支出全体に占める借金返済額の割合が小さく、自由に使える財源が多くあることを示します。
実質公債費比率の早期健全化基準は、市町村・都道府県とも25%であり、この基準を超えた自治体は財政の健全化に向けての計画を策定し、これに取り組まなければなりません。
東京都の場合、平成26年度の実質公債費比率は、0.7%であり、早期健全化基準の25%を大幅に下回っているため、健全であるといえます。
将来負担比率
カードの下半分右側にある「健全化判断比率」欄の上から4番目にあります。
将来負担比率は、自治体の借入金(地方債)や将来返済していく可能性のある負担について、現時点での残高を指標化したものです。つまり、借金の返済が、将来的にどれだけ財政を圧迫する可能性があるのか、を示す指標です。
将来負担比率が低いほど、将来の財政に対する借金の返済による圧迫が少ないといえます。
将来負担比率の早期健全化基準は、都道府県・政令市は400%であり、市町村は350%となっています。この基準を超えた自治体は財政の健全化に向けての計画を策定し、これに取り組まなければなりません。
東京都の場合、平成26年度の将来負担比率は、49.7%であり、早期健全化基準の400%を大きく下回っているため、健全であるといえます。
日本国内全地方公共団体の決算カードについては、総務省のサイトにて確認することができます。
なお、自治体財政についてもっと詳しく知りたいという場合には、次の本がおすすめです。
まとめ
- 受験しようとする自治体の財政状況については、事前によく知らべておく必要がある
- 自治体の財政状況によって、入庁後の労働環境が大きく左右される
日本国内全地方自治体の決算カードの情報は、総務省の公式サイトから確認できます。
また、上で挙げた各指標の詳細な説明についても、総務省のこちらのページから確認することができます。